カントK
敷地は西国街道という南北に走る歴史街道に面し、周囲には古墳や史跡、
町家や田園が往々に残る。一方で、近代以降に建てられた住宅や商店、
アパートなども混在しており、京都市中心部と同様、文化的建築物は減少し、
雑然とした街並みになりつつある。
計画にあたり、施主からは収支計画に沿わせるため、
「敷地に建て得る合理的な建築ボリューム」と
「賃貸物件として需要の高い間取り」という条件が与えられた。
法規的な敷地条件から、鉄筋コンクリート3階建の建築ボリュームを導き出し、
南向きのファミリータイプ住戸を東西に短冊状に並べて計画し、条件の偏らない
安定した居住環境を確保した。また、
構造的な耐力壁は建築外周部に集め、住戸内に極力構造壁をなくしていくことで、
間取りや用途の変更を容易にし、時代ニーズの変化に対応できるプランとした。
設備も同様に、配管等の設備スペースは水周りエリアに集積し
点検・更新に対応できるよう配慮した。
隣地北側は空地、南側には低層住宅の宅地が面しており、
通りからの視線が抜けるため、この建築の立面が周囲に与える
景観的影響は大きいと判断した。
このような文脈を考慮し、周囲の街並みのスケール感を逸脱しないよう、
外壁を通常より小さい600mmモジュールの割付で計画し、
地面から屋根まで縦に細長いプロポーションの壁を、
さながら列柱のように連続して配置させることで立体感とリズムを持った
ファサードをつくりだしている。打設したコンクリート面は水墨のような
半透明の黒色撥水材で保護し、町家が持つ“いぶし銀”の瓦屋根と呼応する
特徴的な質感を持たせた。
こういった試みによって、街道沿いの街並みにゆるやかな秩序を持たせつつも、
異質な存在にはならないよう注意深く検討を重ねた。今や、
スクラップアンドビルドの時代は終わり持続性が求められる時代になっているが、
この先使いようのない建築物はやはり無用の長物となってしまうはずである。
この建築は時代変化に柔軟に対応しつつも、
場所に根付いた普遍的な佇まいを持って、無意識に雑然となりつつある
この街並みに、一石を投じるものとなる事を期待している。